
Hotels ・ 20 AUG 2026
Rosewood AMAALA―紅海で再定義される「ウェルネス」と土地性
Rosewood AMAALA — Redefining Wellness Through the Landscape of the Red Sea
紅海とヒジャーズ山脈のあいだに生まれたRosewood AMAALA。ここで再考されているのは、スパや施術だけではない「ウェルネス」と、その土地だからこそ成立するラグジュアリーのかたちだ。
Rosewood AMAALAは、サウジアラビア北西部の紅海沿岸で進む大規模な観光開発「AMAALA」の中核エリア、Triple Bayに位置するウェルネスリゾートだ。

AMAALAは、石油依存からの経済多角化を進めるサウジアラビアのVision 2030とも結びつく観光開発のひとつ。
紅海の自然環境を生かしながら、ウェルネス、文化、ラグジュアリーを軸とした新しい滞在地を構想している。
Rosewood AMAALAは全110室。スイートやパビリオン、ウェルネスに特化したAsaya Lodge、プライベートプールを備えるヴィラなどで構成され、さらに26のRosewood Residencesも設けられている。
AMAALA全体が掲げているのは、100%再生可能エネルギーによる運営や、ゼロカーボン、埋め立て廃棄物ゼロを目指す再生型観光という考え方だ。
世界的なラグジュアリーブランドが、その土地の自然や文化とどう関係を結ぶのか。
そこから、このホテルが掲げる「ウェルネス」と「土地性」という二つのテーマが見えてくる。

主役は、建築ではなく土地
Rosewood AMAALAが位置するのは、サウジアラビア北西部のAMAALA、Triple Bay。
一方には紅海が広がり、その背後にはヒジャーズ山脈が続く。
建築を担当したのは、ミラノを拠点とするACPV ARCHITECTS Antonio Citterio Patricia Viel。
Rosewoodがホテルづくりの思想として掲げているのが、「A Sense of Place」だ。
その土地の文化や自然、歴史を読み取り、ホテルそのものに反映させるという考え方である。
Rosewood AMAALAでは、この思想がとりわけ重要になる。
ここでは、ホテルの向こう側に紅海があるのではない。
紅海、山、砂漠、光、植物といった環境そのものが、滞在体験をつくる一部として考えられている。
近年の湾岸地域では、建築そのものをアイコンにするプロジェクトも数多く生まれてきた。
高さ。
大きさ。
造形。
視覚的な驚き。
それに対してRosewood AMAALAが示そうとしているのは、少し異なる方向だ。
建築が風景より前に出るのではなく、風景を感じるための器になる。
何を加えるかだけではなく、何を邪魔しないか。
その抑制の中に、このホテルの土地性が現れている。
「ウェルネス」は、スパだけではない
Rosewood AMAALAの中心に置かれているのが、Rosewoodのウェルネスコンセプト「Asaya」だ。
ウェルネスという言葉から、多くの人がまず思い浮かべるのは、スパ、マッサージ、ヨガ、トリートメントだろう。
もちろん、そうした機能もここには存在する。
けれどRosewood AMAALAが提示しようとしているウェルネスは、それだけではない。
身体を整えること。
呼吸すること。
自然の中で過ごすこと。
自分の感覚を取り戻すこと。
そして時には、何もしないこと。
ウェルネスを「特別な施術を受ける時間」から、滞在全体の状態へ広げようとしている。
それを象徴する考え方のひとつが、静かな時間を意味する「Sukūn」だ。
ラグジュアリーリゾートは長いあいだ、選択肢の多さによって豊かさを表現してきた。
レストランの数。
アクティビティの数。
部屋の広さ。
サービスの種類。
しかしRosewood AMAALAが向かっているのは、その反対側なのかもしれない。
静かになること。
海を見ること。
風や光の変化に気づくこと。
陽が沈む時間を意識すること。
何かを足し続けるのではなく、余分なものを外していく。
その結果として、自分の身体や感覚が戻ってくる。
ここでは、その「戻ること」自体が、新しいラグジュアリーになろうとしている。

紅海という土地を、どう扱うか
このホテルを考えるとき、もうひとつ欠かせないのが、AMAALA全体で掲げられている再生型観光という考え方だ。
紅海沿岸には、サンゴ礁をはじめとする豊かな海洋生態系がある。
旅行者にとって魅力となる自然は、同時に守らなければ失われるものでもある。
だからこそ、Rosewood AMAALAの「土地性」は、単に景色を客室から楽しむことだけでは成立しない。
ホテルがその土地から何を得るかだけではなく、その土地に対して何を返すのかまで含めて考える必要がある。
近年、ラグジュアリー業界では「サステナブル」「自然との共生」「再生」といった言葉が頻繁に使われる。
けれど、本当に重要なのは言葉ではない。
ホテルの運営が始まったあと、十年、二十年という時間の中で、その土地がどのような状態で残っていくのか。
旅行者が増えても、海の生態系は守られるのか。
大規模な観光開発と自然保護は、本当に両立できるのか。
Rosewood AMAALAが掲げる理念の価値も、最終的には時間によって評価されることになるだろう。
日本の「余白」と、紅海の静けさ
Rosewood AMAALAが提示するラグジュアリーには、日本の読者にとって、どこか理解しやすい部分がある。
日本の旅館や庭園では、すべてを埋めることよりも、あえて残された余白が空間を豊かにすることがある。
窓の向こうの山を借景として取り込む。
庭そのものを建築の一部として考える。
湯に入り、季節の移ろいを感じる。
廊下を歩く速度が自然と落ちる。
そこでは建築が自然を支配するのではなく、自然に気づくための枠として存在する。
Rosewood AMAALAにも、それと響き合う考え方が見える。
けれど、それを単純に「サウジ版の旅館」と呼ぶ必要はない。
日本の静けさと、紅海の静けさは同じものではないからだ。
日本には、四季、庭、木、湯、湿度がある。
紅海には、乾いた空気、強い光、海、サンゴ礁、ヒジャーズの山、アラビア半島の植物や香りがある。
土地が違えば、静けさの質も変わる。
だからこそ面白い。
共通しているのは、形式ではない。
豊かさを、所有するものではなく、感じるものとして捉えること。
そこに、日本と紅海をつなぐひとつの接点がある。

ラグジュアリーと「土地性」
世界的なラグジュアリーホテルが増えるほど、ひとつの矛盾も生まれる。
どの都市へ行っても同じブランドがあり、同じ水準のサービスを受けられる。
それは安心である一方、その場所でなければならない理由を薄くすることもある。
ドバイでも、パリでも、東京でも、同じ体験ができる。
それはグローバルラグジュアリーの強さであると同時に、弱さにもなり得る。
だからこそ、これからのラグジュアリーにとって「土地性」は重要になる。
そのホテルがどこにあるのか。
その土地には何があるのか。
そこで暮らしてきた人々は、どんな文化を持っているのか。
建築はその風景とどう向き合うのか。
料理は土地をどう表現するのか。
香り、素材、光、静けさは、その場所ならではのものになっているか。
Rosewood AMAALAは、それらの問いを紅海という場所で試している。

サウジアラビアのラグジュアリーは、どこへ向かうのか
ここ数年、サウジアラビアでは数多くのホテル、文化施設、観光地が計画されてきた。
その規模と速度は、世界から大きな関心を集めている。
けれど、その次に問われるのは、おそらく「どれだけ大きいか」ではない。
その土地にしかないものを、どれだけ残せるか。
海外のホテルブランドが入りながら、地域の文化や自然をどこまで読み取ることができるか。
訪れる人が、その土地を単に消費するのではなく、理解しようと思える体験をつくれるか。
そして、ラグジュアリーを「所有すること」から「感じること」へ変えられるか。
Rosewood AMAALAが紅海で試みているのは、ひとつのホテルの新しい形だけではない。
ウェルネスとは何か。
土地らしさとは何か。
そして、豊かさとは何か。
その三つを、もう一度問い直すことなのかもしれない。